昼間は暖かい日が増え,日も長くなってきました。
春の先駆けとなる花が咲き始めると,嬉しくなりますね。
能登半島地震から2か月経ちましたが,被災された方々はこれからもまだまだ大変です。
皆様がゆっくりと花を楽しめるようになりま
すよう,皆様のご無事と,早期復興を,引き
続きお祈りいたします。
🌺「花」と聞いて,思い浮かべる花は何ですか?
日本の国花(国の象徴とされる花)は「菊」と「桜」だそうです。法律で定められてはいませんが,古くから日本人に親しまれてきた花です。どちらも,硬貨や切手のデザインに使われていますね。
では,菊と桜,そして今が見頃の梅について見ていきましょう。
今回はそれぞれの花を詠んだ和歌をご紹介! 百人一首に入っているものや,有名なものを選んであるので,味わってくださいね。
🌺 まずは,菊から。
幼い頃から身近にあった花です。
小学生の時は みんなで大輪の菊を植えました。開花したときは嬉しかったです!
菊は皇室の紋章としても使われていますね。
天皇家ゆかりの神社にも菊の御紋が使われているので,すぐ分かります。
菊の花びらが一重・八重,16枚・32枚などの違いがあり,
私の好きな石上布都魂神社は24枚。御祭神は素盞嗚尊(スサノオノミコト)。
当初は八岐大蛇を斬ったときの剣・ 布都御魂(十握剣)をお祀りしていましたが,
後に石上神宮(奈良県)に遷されたとのこと。
とても清らかな気が流れているところがあって,知る人ぞ知るパワースポットです (^^♪
その神社の近くには,素盞嗚尊が八岐大蛇を倒した後に剣を洗ったとされる滝もあるんですよ。
国花とされれる花だから,古い歌集にあるだろう,と思ったら,
『万葉集』(現存する日本最古の歌集で,8世紀後半に成立 主に飛鳥~奈良時代に詠まれた歌を収録)
には菊を歌ったものは一首も無いんです!
『万葉集』には漢名で呼ばれる渡来系の植物は歌われていないようです。
菊は大陸から渡来した植物で,キクの名も漢音に由来するとか。
(『万葉集』とほぼ同じ時代の漢詩集『懐風藻』には収録されています。)
和歌の世界では,平安時代になると詠まれるようになってきたようです。
ですので,『古今和歌集』(平安時代前期の勅撰和歌集。『万葉集』よりも後の時代に成立)
からご紹介。
心あてに 折らばや折らむ 初霜の おきまどはせる 白菊の花 (凡河内躬恒)
出典:古今和歌集
(もし手折るというのならば,当て推量に折ってみようか。初霜が一面におりて(白菊
なのか霜なのか)見分けがつかないように,人目をまどわせている白菊の花を
――。)
※ 凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)は平安時代の代表的歌人。『古今和歌集』の撰者の一人で,
入撰数は紀貫之に次ぐ多さ。三十六歌仙の一人。
🌺 お次は,梅です。
梅は他の花に先駆けて春一番に咲く花。まだ寒い中でも咲き始める梅には,力強さを感じます。香りもいいですね。
梅も奈良時代以前に大陸から渡ってきて,ウメの名も漢音に由来するのに,菊と違って
梅は当初から和歌の世界に溶け込んでいます。
『万葉集』での梅の歌は,萩の次に多いのです。桜の3倍くらいありました。不思議です ね。
梅という植物そのものは大陸文化と強く結びついていて,伝来の当初から鑑賞用として
貴族の庭園に植えられていたようです。
当時の貴族が中国の文化に憧れて,梅に関心を寄せていたことがうかがえますね。
「花といえば梅」だったのです。梅は花だけでなく,香りも愛でられていました。
残りたる 雪に交れる梅の花 早くな散りそ 雪は消ぬとも (大伴旅人)
出典:万葉集
(残っている雪に混じっている梅の花よ 早く散ってくれるなよ。雪は消えても。)
※ 大伴旅人は727年に大宰府に長官(大宰帥)として赴任しました。役人であると同時に優れた歌人
でもあります。大宰府へは2年半ほどの赴任でしたが,その間,山上憶良などの文人たちと交流があり
ました。
『万葉集』よりも後に編纂された『古今和歌集』からも1首。
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける (紀 貫之)
出典:古今和歌集
(あなたは,さあ,(心がお変わりになられたかどうか,その)お心のほどは私には
わかりません。しかし,昔なじみのこの里では,梅の花だけが,元のままの香りで,
美しく咲きにおっていることですよ。)
『古今和歌集』では桜の歌が圧倒的に多く,梅の4倍くらいありました。この歌が詠まれた頃には「花といえば桜」でした。
しかし,この歌は『古今和歌集』の詞書(ことばがき)に「梅の花を折りてよめる」とあります。もしそれを知らなくても,歌に「香」とあるので,詞書が無くても梅と分かりますね。
※ 紀貫之は平安時代の代表的歌人。『古今和歌集』の 中心撰者で,三十六歌仙の一人。
『土佐日記』は,「男のすなる日記といふものを,女もしてみむとて,するなり。」で始まる
仮名文字を用いた作品で,女性が記した形を取りました。これは新しい文学のジャンルを
切り開き,後の文学に大きな影響を与えました。
さらに,梅といえば,太宰府天満宮の飛梅ですね。
東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ (菅原道真)
出典:大鏡
(春風が吹いたら,その匂いを大宰府まで送っておくれ,梅の花よ。
私という主人がいないからといって、春を忘れてはならないぞ。)
この歌は『大鏡』(平安後期の歴史物語)に収録されています。
幼い頃から梅をこよなく愛していた道真は,いわれのない罪で左遷される折,自邸の庭の梅の木に,上の歌で語りかけました。
するとその歌に応えるように,梅の木は道真を慕って,一夜のうちに京都から大宰府まで飛んできたと伝えられています。
一度大宰府を訪れたとき,飛梅は見事な花を咲かせていました。色玉垣という極早咲の八重の品種で,毎年境内の梅に先駆けて開花するとのことです。
大宰府には約200種類6,000本の梅があるそうですよ。神紋はもちろん梅紋です。
🌺 最後は桜です。
毎年春になると,実家にあった桜の木を思い出します。柔らかいピンクの花びら,優しい緑の葉……。思い出の花です。
桜も大陸から渡ってきたとされています。サクラの語源は木花之佐久夜毘売命(コノハナサクヤヒメ)という神様の名前であるといわれています。
桜は日本人にとって特別な花です。入学式の頃には桜が咲き,門出を祝ってくれます。
桜の開花予想や花見情報も報道されます。日本人の感性や美意識にも合っているのでしょうね。
土手にはよく桜が植えられていますが,それは大雨による川の氾濫を防ぐために,江戸時代に植えられたとか。
多くの人が花見に訪れることによって土手が踏み固められ,増水に耐えられる土壌になるからだそうです。素晴らしい知恵ですね。
開花はもう少し先ですが,待ち遠しいです🌸
ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ (紀 友則)
出典:古今和歌集
(陽光も のどかな この春の日(なの)に,(なぜ)落ち着いた心もなく,
桜の花は散り急いでいるのであろう(か)。)
『古今和歌集』の詞書に「桜の花の散るをよめる」とあります。それを知らなくても,
「花といえば桜」の代表的な歌です。
※ 紀友則は紀貫之の従兄弟(いとこ)で,『古今和歌集』撰者の一人。また,三十六歌仙の一人。
歌の道では貫之の先輩に当たります。
ちなみに,『古今和歌集」の撰者は,紀友則,紀貫之,凡河内躬恒,壬生忠岑(みぶのただみね)の4人。
友則は完成以前に亡くなり,その後は貫之が中心となりました。
🌺もうすぐ桃の節句。長くなってしまったので,桃には触れられませんでしたが,
四季折々の美しい花を,今年も楽しみましょう (^^♪
参考:・『小倉百人一首』1984 文英堂
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