ネジバナと染め物,そして和歌
- kibou7kateikyoushi
- 8月1日
- 読了時間: 4分
更新日:8月24日

ネジバナ(捩花),ご存じですか? 小さい花が,ねじれたように螺旋(らせん)状に
ついています。巻き付き方は,右巻き・左巻き・途中から巻き方が変わる・巻かないものも
あり,様々です。

ラン科ネジバナ属の多年草で,日本に自生する原種のランです。花は小さいけれど,拡大してみると
右の写真のように,まさに蘭!
教員時代,外掃除の担当をしたことがありました。夏の暑いこの時期,外掃除は つらいのですが,
芝生に生えているネジバナを見ると,心が和みました。暑い中でも元気に育って花を咲かせています。
掃除では芝生の雑草を抜くのですが,生徒には「これは抜かないで」と念押ししていました。(そのような花がいくつかありまして,ゆるい掃除担当でした (^^ゞ )
ネジバナには「ねじり草」「ネジレバナ」「ネジリバナ」という呼び名もあります。
「モジズリ(綟摺)」という別名は,「捩摺」という ねじれた摺り(すり)模様に染めた
織物に由来しています。 参考:LOVEGREEN
💚「もじずり」,百人一首にもありましたね。 参考:『小倉百人一首』1984 文英堂
みちのくの しのぶもぢずり 誰ゆえに 乱れそめにし 我ならなくに
河原左大臣 源融(かわらのさだいじん みなもとのとおる 嵯峨天皇の皇子)
出典:『古今集』
奥州の(信夫(しのぶ)地方の)しのぶもじずり(乱れ模様染めの)ように,
(あなた以外の)誰かのせいで心が乱れはじめた私ではないことなのに。
(この乱れた恋心はあなたのせいなのです。)
「そめ」は,「初め」と「染め」が掛けられています。
複雑な乱れ模様のイメージと心の乱れとを重ね合わせ,どうしようもない恋慕の情を
感じさせています。
🌿この歌を初めて見たときに,
「しのぶもぢずり」っていったい何だろう,
この言葉に もし意味の切れ目があるとしたらどこだろう,
などと疑問に思っていました。
「しのぶもぢずり」は, 奥州の信夫(しのぶ)地方(現在の福島市や伊達郡の一部)の もじずり
(乱れ模様染め),平安時代から伝わる古代摺込染めのことです(下の写真参照)。

写真の大きな石は,文知摺観音(もちずりかんのん)にある文知摺石です。その隣には
綾形石(あやがたいし)もあります。これらの石は,「しのぶもぢずり」に使われたと
考えられています。
写真の布は,水で濡らした綾形石に絹を乗せ,藍や紅花などの色を摺り込んで作られた
ようです。綾形石の自然の石紋であのような模様が現れるのですね。
🌿上記の歌にまつわるお話です。
この歌を詠んだ 源融 は,『源氏物語』の光源氏のモデルであるという説もあります。
陸奥の地を訪れた融は,村の長者の娘・虎女(とらじょ)と出会い,恋に落ちます。
ひと月の滞留の後,融は再会を約束して都に帰ります。
再開を待ちわびた虎女は,文知摺観音に百日参りの願をかけました。満願の日を迎え
ましたが,都からは何の便りもありません。
嘆き悲しんだ虎女がふと目を遣ると,文知摺石に融の面影が一瞬浮かんで見えました

(このことから,文知摺石は別名「鏡石」とも呼ばれて
います)。
虎女が病の床についてしまったとき,都の使いの者に
より,虎女のもとに融の歌が届けられました。
その歌が,上記の歌です。融が遠く都で恋の思いに
心乱れている様子が表れていますね。
🌿自分の好きな花や物などが,思わぬものにつながっているのを知るのは楽しいです。
夏休みで時間があるときに,探求してみるといいですね。世界が広がりますよ (^^♪
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